【余談】 【読書】 田中康夫 『なんとなく、クリスタル』

【余談】 【読書】 田中康夫 『なんとなく、クリスタル』

本書は、1980年代、殊に1980年6月の東京に生きる女子大生・由利を主人公にした風刺小説。

学生の頃 (20年ほど前かしら)、本書を一読したことがあるのだけど、
そのときは――地方のとある国公立大にいたためか、いや、間違いなくそうだけど――
正直、NOTES (註) に書かれてあることがまったくピンとこなかった。

齢40となり、かつ、某都民となって数年となる現在、
本書をあらためて読んでみたところ、
NOTES (註) はかつて読んだ頃よりも明らかに楽しめるようにはなった。

が、本文の、このバブル経済に沸く直前の
「クリスタルなアトモスフィア」 (p.216) というのは、
ロスジェネ世代 [バブル崩壊後のおよそ10年間に社会人になった世代
(1970-1982年頃に出生)] にあたる私には、おそらく今後とも、金輪際、
永遠に共感できない代物には違いないと感じる。

   ブランド・ロイヤリティーやショップ・ロイヤリティーが高い、
  ということでもなかった。
   千駄木まで一枚の千代紙を買いに行く。その気力を大切にしたかった。
   クレージュの夏物セーターを、クレージュのマークのついた紙袋に
  入れてもらう。そのスノッバリーを大切にしたかった。
   甘いケーキにならエスプレッソもいいけれど、たまにはフランス流に
  白ワインで食べてみる。そのきどりを大切にしたかった。
   クラブのある日には、朝からフィラのテニス・ウェアを学校へ
  着ていってしまう。普段はハマトラやスポーティでも、パーティーには
  グレースなワンピースを着て出てみる。その遊びを大切にしたかった。
   高輪へ行ったら東禅寺を訪れてみる。南麻布へ行ったら光林寺を訪れてみる。
  その余裕を大切にしたかった。
   向島へ歩く時にブランド物を着ていくなんて、愚かしいことはしない。
  アメ横へは、太うねのコーデュロイ・パンツに、同好会のエンブレムのついた
  スタジアム・ジャンパーを着て行く。
  服だって、その場に合った着こなしというものがあった。
   イギリス製の食器や、スウェーデン家具でなきゃ、いやだなんてことは
  考えなかった。バッグだって、なるべくルイ・ヴィトンだけは避けたかった。
  特に不相応な生き方をしてみたいというのでもなかった。
   こうしたバランス感覚をもったうえで、私は生活を楽しんでみたかった。
   同じものを買うのなら、気分がいい方を選んでみたかった。
   主体性がないわけではない。別にどちらでもよいのでもない。
  選ぶ方は最初から決まっていた。
   ただ、肩ひじ張って選ぶことをしたくないだけだった。
   無意識のうちに、なんとなく気分のいい方を選んでみると、
  今の私の生活になっていた。(pp.56-60)

――なんというか、気持ち悪い……。総じて、気持ち悪すぎる……。

とはいえ、本書のところどころにサラッと出てくる思わず唸ってしまうコメント
――これは流石だ。

   インターナショナル・スクールにも、最近は随分と、日本人の子が
  入ってきていると奈緒が言っていた。海外に三、四年いた商社マンの子供が、
  日本へ帰ってくると、「日本人学校」 へ入らずに、
  インターナショナル・スクールに転入してしまうらしい。
   日本のむつかしい数学や、「文法英語」 についていけずに悩んだあげく、
  まともな大学に入れなくなるくらいなら、「外国人学校」 から
  ミッション系の大学へ入る方が、得策かもしれない。
  英語やフランス語も忘れずに済むし、インターナショナル・スクール出身ということで、
  大学へ入っても男の子にチヤホヤされるだろう。
  私たちって、横文字文化に弱いのだから……。

本書には、その 「横文字」 が、大半は見慣れぬ固有名詞と併せて、
もう、気持ち悪いくらい延々と登場しつづけ、多少吐き気を催すけれども、
ただ、思い起こしてみると、この過剰な 「横文字」 使用を通じて、
「クリスタルな生き方」 (p.222) のふわふわとした空虚さを
一層引き立たせているようにも感じるのだが、いかがだろう。

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